配合していません。
炭酸水素ナトリウム(重曹)とはアルカリ性の物質で、汚れを浮かせ油脂やたんぱく質を破壊・分解する作用があります。
また粒子が大きく水に溶けにくいという性質があり、キッチン周りの研磨剤として重宝されています。
炭酸水素Na(重曹・研磨剤・アルカリ)を配合した歯みがき剤は、キッチンにある重曹で作れることからキッチンコスメとして自然志向の人達によって家庭でも作られてきました。
しかし現代の世界中の口腔臨床現場においては、歯みがきや口腔ケアへの使用について推奨されない様々な課題がありました。
オーラルピースについても、開発において様々な検証がなされましたが、以下の理由により配合しない処方にいたしました。
まず、「研磨作用によって歯が削れてしまう」という課題です。
炭酸水素ナトリウム(重曹・研磨剤・アルカリ)は頑固な汚れを落とすクレンザーにも配合されているほど、研磨作用の強い物質です。
米国歯科医師会(ADA)においては、炭酸水素ナトリウム(重曹)の粒子は市販されている歯磨剤のどの研磨成分よりも粒子が荒く大きいとされ、ヤスリやクレンザーで歯を磨く行為と同じということで推奨されてないとのことです。
連日研磨するとエナメル質が日々削られ、いずれ知覚過敏の症状が出る、虫歯になりやすくなる、歯の表面についた傷に色素が残りやすくなり黄ばみの原因となる、最終的には
中の象牙質が見え歯が白色を超えて灰色になってしまう可能性があります。
そして削れてしまった歯は元には戻りませんので、注意が必要です。
次に、「塩分の過剰摂取を招く」という課題です。
炭酸水素ナトリウム(重曹・研磨剤・アルカリ)は塩と同じくナトリウム化合物で構成されています。
健康な人でも1日に摂取できる炭酸水素ナトリウム(重曹・研磨剤・アルカリ)の量は5グラム以下とされています。
炭酸水素ナトリウム(重曹・研磨剤・アルカリ)による歯磨きやうがいで誤って飲み込んでしまうと、塩分を過剰摂取することになります。また、飲みこまなくても口腔内粘膜から塩分は吸収されてしまいます。
とくに腎臓・心肺機能に低下が見られる方、塩分やナトリウム制限を受けている方、高血圧の方、持病で塩分の摂取を制限されている方は注意が必要となります。
また、健康な方でも塩分過剰摂取は、むくみなどの代謝異常の症状やアルカローシス等につながるという課題がありました。
次に、「口内がアルカリ傾くと歯石の付着の原因になる」という課題です。
進化してきた人類の口腔内はお肌と同じ弱酸性に保つように生理機能しており、口の中のPHを一定に保ち、原因菌の働きを抑え、歯の再石灰化作用を進める働きがあります。
人間の口内は唾液により弱酸性に保たれていますが、アルカリに傾いた口内は歯石が付着しやすくなります。
歯石は細菌の集まりである歯垢(プラーク)がアルカリによって石灰化したもので、虫歯や歯周病の原因となってしまいます。
イメージとして、食事によって酸性に傾いた口内を中和することで歯の再石灰化を促進し虫歯予防に繋がるかもしれない、という期待もありますが、実際には再石灰化は唾液のミネラルにより行われます。
虫歯も口内が酸性になるからできるのではなく、口腔内に住む虫歯菌が糖を分解して出す酸によって歯が溶かされてできます。
また通常の口腔内の弱酸性は虫歯菌を活性化させるわけではない(アルカリ性に傾けても虫歯菌を不活化できない)ので、一時的に口腔内をアルカリに傾けても意味がない、また虫歯菌を退治することはできない(その前に口腔粘膜や皮膚組織が損傷してしまう)、逆に歯石のリスクが高まるという臨床上の課題がありました。
特に宇宙など水が貴重な環境では、歯石がつきやすくなると考えられています。
最後に、「アルカリによる強い刺激で口腔粘膜にダメージを与える」という課題です。
強いアルカリに処理すると一般的な細菌を殺菌、ウイルスを不活化することができます。
強アルカリは、塩素や次亜塩素酸といった消毒薬と同じように、医療機器やキッチンの消毒には適しますが、様々な菌と成り立っている人の体への使用にはダメージを与えてしまう課題がありました。
細菌も殺菌しますが、薬傷により口腔内粘膜を構成するたんぱく質を破壊し、歯茎や歯周の皮膚組織を傷つけ、口腔粘膜を荒らし口腔内状態を悪化、また歯周トラブルの原因をつくってしまう可能性があります。
皮膚組織やたんぱく質を破壊する特徴から動物の骨格標本を作る際には、炭酸水素Na(重曹)で煮たりします。
また、油で汚れたキッチン道具や目詰まりしたセラミックフィルター、車やバイクの部品などを重曹を加えて煮ると油分やタンパク質が分解し、とてもきれいになります。重曹は100均ショップで売っているのでぜひお試しください。
以上のことから、炭酸水素Na(重曹・研磨剤・アルカリ)は、要介護高齢者、闘病者、塩分を控え健康に気遣う人、口腔粘膜の弱い赤ちゃんには使用できないという口腔臨床上の課題がありました。
よってオーラルピースについては、配合しない処方としております。
しかし、炭酸水素Na(重曹・研磨剤・アルカリ)がお好きな方は、食品用の重曹がスーパーなどで売っていますので、各自ご注意のうえご使用いただけましたらと存じます。